Column /
コラム
2025.12.26
【解説】違法ヤード規制「自動車盗難の出口を封鎖せよ!」
自動車盗難とヤードの関係
先日、2025年12月12日に国民民主党が「盗難自動車等の処分の防止に関する法律案」(自動車ヤード規制法案)(国民民主党 公式情報)と呼ばれる法案を衆議院に提出しました。この法案が通過すれば、自動車盗難防止効果が大いに期待できます。
国民民主党 公式情報 より画像引用
本コラムでは、「自動車盗難の防止」と「ヤード規制」とがどのように結びつくのか、後者が前者の中でなぜ重要な役割を果たすのか、などについて基本的な事項から解説します。また、茨城県・千葉県などの自治体が既に実施しているヤード対策まで紹介します。
ヤードとは?
法案提出者である国民民主党の浜口誠政調会長より「自動車盗難犯罪の上流にある自動車等を解体する業者(ヤード)のところでしっかりとした歯止めをかけてやらなきゃいけないというのが我々の課題意識である。」(()内引用者。国民民主党 公式情報)と言われている通り、自動車盗難と違法・不法ヤードには強い関係があります。

千葉県警察公式情報 より画像引用
そもそも正規の適法ヤードは、主に中古車や事故車を一時的に保管しておく場所です。同時に、事故車などを解体し、部品単位にばらして集積する業務も行われます。これら車両や部品はヤード内で洗浄・修復などを施され、自動車リサイクル法を始めとする日本国内の法律に則り、国内外の市場へ再度流れていきます。
当然こうしたヤードのすべてが自動車盗難に関わっているわけではありません。ただし、「事故車などの一時保管・解体を日常的に行っている」という性質から、ヤードには窃盗車両が集まりやすいこと確かです。また、騒音防止などの目的で、ヤードの周りは金属製の壁などで囲むのが一般的です。このような状況も窃盗車両の持ち込みやすさにつながっています。
自動車窃盗におけるヤードの役割:ヤード規制の効果は?
盗難された自動車は、主に海外への不正輸出や解体・再流通といった「出口」に流れています。違法なヤード事業者は、窃盗車両を引き取って保管し、それを部品単位にばらすなどして売りやすい状態に加工する役割を持っています。盗難車両はそのままでは再販しづらく、国外にも持ち出しづらい盗品ですが、それを売買・輸出可能な状態に加工するのが不法ヤードということです。
つまり単純にいうと、「違法・不法ヤードがなければ、盗んだ車両を売ることができない」ということになります。
ヤード規制が自動車窃盗対策として大きな重要性を持っていることがおわかりいただけたかと思います。
自動車窃盗の基本フローをおさらい
自動車盗難の仕組みは、組織的な犯罪ネットワークとして巧妙化しています。これを理解する上で、入口(盗難発生経路)と出口(盗品売却経路)を押さえることが重要です。そのため、自動車窃盗のプロセスを整理して理解しておきましょう。窃盗・売買は基本的には下記のフローで行われます。
①ターゲットの選定→②下見→③窃盗実行・逃走→④コインパーキングなどに仮置き→⑤ヤード搬入・保管・解体→⑥不正輸出(一部は国内で再販)
入口(窃盗実行)から出口(盗品売却)へと経路が切り替わるところに⑤ヤードがいることがわかるかと思います。
またこのうち、盗難車両が“車”としての外観を保っているのは④までです。⑤でヤードに持ち込まれてしまえば部品単位にばらされたり、ボディを真っ二つにされたりして“車”という形状をなさなくなり、他の車両からばらされた部品と混ぜられて保管される場合もあります。こうなれば警察がどんなに頑張っとしても元の状態で取り戻すのは困難です。
逆に言えば、取り戻せるタイムリミットは④のコインパーキングなどでの仮置きまでということになります。こちらの動画でも解説していますが、
窃盗犯はヤードや拠点の場所がバレないように、窃盗車両を一度コインパーキングなどに仮保管します。隠しGPSなどの追跡機能が作動していれば、この間にオーナーや警察が車両を確保しにくるでしょう。逆にこの間に確保されないなら、追跡される心配なく、ヤード・拠点へ運び込めます。
このように、窃盗から輸出・国外での再販まで、一種のサプライチェーンが形成されており、各ステップは基本的に分業されています。ターゲット選定者、下見役、窃盗実行犯、搬送役、不法ヤード業者…はそれぞれ自分の仕事のみ行い、その総体として自動車窃盗団という犯罪組織が形成されているのです。
そのため窃盗実行犯を逮捕したとしても、なかなか窃盗団そのものの解体には至らないのが現状です。この観点からも、窃盗車販売の要となる不法ヤードを取り締まれば、売却を困難にすることができ、将来的な窃盗団の自然解体にも期待が持てます。
自治体・県警での不法ヤード対策
こうしたヤードへの問題意識は、警察はもちろん、多くの自治体でも共有されています。実際にヤード対策用の条例制定や、警察の取り締まり強化を以前から実施している県も少なくありません。
具体的には、2015年の千葉県を皮切りに、全国の都道府県や市町村で条例制定が進んでいます。自治体ごとに「ヤード条例」や「スクラップヤード条例」など名称は異なりますが、許可制導入や保管方法の基準設定が主な内容です。
こうした全国地方の方針と迎合する法整備を、国レベルでも行うよう求めているのが、今回の国民民主党の法案提出ともいえるでしょう。
すでに条例制定を実施した主な県をリストにしました。
県名(制定・施行年)
- 千葉県(2015 年)
- 茨城県(2017 年)
- 愛知県(2019 年)
- 埼玉県(2020 年)
- 三重県(2021 年)
- 福島県(2024 年)
- 山梨県(2024 年)
- 群馬県(2025 年)
最後に初期にこれら制定を行っている千葉県と茨城県の取り組みを紹介します。
千葉県の例
ヤード規制条例を最初に制定したのは千葉県です。千葉県は全国で最も多くの「ヤード」(自動車解体・部品保管施設など)が存在し、その数は数百カ所から約790カ所(2025年9月末時点の自動車ヤード)と推計され、全国の約2割を占めています。
また、千葉県は2023年には盗難認知件数全国第1位でしたが、2024年には全国第3位、2025年11月時点では全国5位まで順位を下げています。この低下に貢献した施策としてはやはり不法ヤードの規制が大きかったと考えられます。
千葉県警察もこうした不法ヤード摘発に向けて、情報協力の呼びかけや注意喚起を県民に向けて積極的に発信しています。このような対策実施や呼びかけは、昨今の盗難被害減少という成果として着実に現れているといえるでしょう。
また千葉県警は比較的最近、下記のような著名作品や損保協会とのコラボも行い、自動車窃盗の防犯意識を向上させるためのコンテンツも発表しています。
茨城県の例
ヤード規制条例を2番目に制定したのは茨城県です。茨城県は全国でも際立って盗難認知件数が多い県でした。自治体・警察による対策強化によって、著しく認知件数を低下させることに成功しました。2019年には全国第1位でしたが、2024年には全国第4位、2025年11月時点では全国4位まで順位を下げています。
そんな茨城県では自治体が不法ヤード規制条例を制定する以外にも、県警察によるSNSなどのメディアを通じた積極的な啓発活動など、様々な施策が実施されています。
茨城県のヤード条例についての詳細は下記資料でご確認ください。
岡崎孝平(2018)「茨城県ヤード条例の制定とヤード対策」『日防設ジャーナル』No.120(陽春号),公益社団法人日本防犯設備協会.
茨城県警察による啓発活動で特徴的なのは、「県民の注意を引くためにどうしたらいいか」という実践的な観点から手法が考えられている点です。例えば下記のようなチラシやコンテンツを制作し、未遂情報をもとに、より具体的で効果的な対策を県民に広くアピールする試みを長く続けています。

加えて最近では、茨城県損保協会とのコラボコンテンツも活用し一般住民への認知拡大策を進めています。
こうした試みや成果は茨城県警察の専用ページにまとめられています。
こちらの茨城県や千葉県の進めている各対策は、各県の盗難件数減少というデータによって大きな効果が実証されているため、非常に有用な先行事例です。自分や身近な方の自動車盗難被害の防止をお考えの場合、まず本記事でご紹介した実例を改めてご確認していただき、基本的な注意点や対策方法をチェックしてもらえれば幸いです。
住民の防犯意識が最も大切
先述のように「不法ヤード対策」をはじめ、自治体や警察は様々な施策を実施しています。しかし最も大切なことは住民の方々ご自身が、防犯意識を向上させることです。これが地域全体のセキュリティの底上げに直結します。日本各地の地域で住民全員の意識・認識を向上させ、犯罪を実行しづらい環境を作り出していきましょう。
そのためにもまずは、千葉県や茨城県を始め、実績を上げている自治体の情報を確認してみてください。国や自治体の不法ヤード対策と連動して、私たちの意識も変えていくことで、自動車窃盗の被害件数0を目指していきましょう。